ブラックホールは存在しない?
スティーヴン・ホーキング博士は、『arXiv』に公開した短い論文で、「光が無限に抜け出せない領域という意味でのブラックホールは存在しない」と主張している。
http://sankei.jp.msn.com/wired/news/140127/wir14012716000000-n1.htm
短い論文だったので読んでみて、素人にも雰囲気くらいは伝わるようなレビューを書いてみました。
間違っているところがあればご指摘いただければ幸いですm(__)m
論文にはないけどブラックホールの理論の歴史から話した方がいいと思うので、
関係ありそうなところ(+僕が知っていること)を書いてみます。
■最初にブラックホールという概念が出てきたのは、一般相対性理論から
大きな質量が、小さな体積に詰まっていると、時空の曲がりが大きくなりすぎて、光も脱出できなくなる。
光も出てこない=完全な黒、ということでブラックホール。
これは古典論の範疇(量子論が入っていない)
ちなみにブラックホールの半径のことを「事象の地平線(イベント・ホライゾン)」と呼ぶ。(後から出てきます)
■ここに量子論を入れたのがホーキング
量子論を考えると、ブラックホールから光とか電子とかが出てくることが分かってしまった。
ブラックじゃないじゃん!と思うかも知れないけど、これは量子的効果なので、出てくる光や電子はすごい微量で十分ブラックだと思うべし。
これをすごいザックリ言うと、ブラックホールの境界近くで
電子と陽電子が対生成した場合、一方はブラックホールに吸い込まれるけど
もう一方は飛び出してくる、という話。
このときに、光や電子がエネルギーを持ち出すので、ブラックホールのエネルギーは減少する。
ということは十分長い時間が経てば(そして、その間、ブラックホールに新たにエネルギーが供給されなければ)
ブラックホールはやがて消滅してしまう。
これがいわゆる「ブラックホールの蒸発」
■今度はAdS/CFT対応というものを持ち出す。
これもザックリ言うと、ブラックホールがある時空を考えたとき、それと対応する場の理論が存在するということ。
場の理論というのは、特殊相対論と量子論を統一的に扱うための理論だと思えばOK。
つまり
という対応がつくわけだけれども、ここで問題が発生。
ブラックホールが蒸発すると、ユニタリティというものを満たさなくなる。
ユニタリティというのは、物理量が実数であるために必要な性質のこと。
ブラックホールなんて、その中身がわけ分かんなくなっていて、既存の理論は成り立たないだろうからユニタリティを満たして無くてもいいじゃん!と思っていたんだけれども
実は、場の理論側ではユニタリティが保たれている。
ということで
ユニタリティを保たないブラックホールの理論 ←→ ユニタリティを保つ場の理論
という対応がつくことになってしまって、???となる。
これを「情報のパラドックス」というらしい。
■その解決策として、
ブラックホールに落ち込むときには、その境界の近くで、
非常に大きなエネルギーの壁(ファイアウォールというらしい、なんかカッコいい!)にぶつかるという理論がある。
なぜこれが解決につながるのかまでは論文を読んでいないので知らない。
ただ、ファイアウォールの問題点として、CPT対称性が成り立たなくなってしまう。
CPT対称性とは、
(C(電荷)P(パリティ)T(時間)をすべて反転させると元の理論に戻る、という対称性だが、そんな細かいことは抜きにして)
場の理論の基本的な法則といえる対称性で、これが成り立たないということは、
既存の物理理論では扱えない新たな理論が必要ということになる。
で、ここまで来てようやく、今回のホーキングの論文にたどりつく。まず、ここまで読んでいる人が誰もいないんじゃないだろうか?
■今回のホーキングの論文では次のような点を主張する
○まずファイアウォールなんてものはおかしい、ということをいくつかの理由をあげて説明
○量子重力理論がCPT対称性を持つと仮定すれば、ファイアウォールはおろか、事象の地平線も出てこない
○なので、いわゆる「光も出てこないブラックホール」というものは存在しない
○今まで”ブラックホール”と呼んでいたものは、重力場が凝縮した状態であり
光や電子を放出する、いわゆるブラックホールの蒸発も、決定論的に決まっている
○けれども中身はカオスになっているので、複雑すぎて、現実的な計算は不可能。
それはちょうど天気予報をしようとしても、複雑すぎて長期間の計算は不可能なのと一緒である。
ほかにもいくつか書いてありましたが割愛。
注意点として、この論文はまだ第三者による審査を経ていません。
間違っている可能性もあるので注意。